正月や節分、ひな祭り、端午の節句・・・
日本人は昔から季節の行事を大切にしてきました。
それは今も変わりませんね。
そして、これらの季節や年中行事に合わせ、調度品や装飾品で室内をふさわしく整えること、
これを室礼(しつらい)といいます。
「季節の移ろいを愛で自然を尊び、自然の命である食べ物に感謝する心」
室礼とはこのような心を、様々な行事を通して家族や訪れる人たち皆で分かち合うための工夫です。
そして、その根底にあるのは「おもてなしの心」です。
時代とともに私たち日本人の生活スタイルは大きく変化してきました。
しかし、日本人が持つ「おもてなしの心」は、日本人独特の繊細な美意識とともに「室礼」という文化として今も根付いています。
この記事では、和室の室礼の基本を紹介しています。
我が家の室礼を整えたいという方はもちろん、客として招かれたときや日本料理店での室礼を楽しむために、ぜひ参考にしてみてくださいね。
室礼の歴史
「しつらい」の語源
室礼の歴史は古く、平安時代までさかのぼります。
この時代の建築様式である寝殿造(しんでんづくり)は、部屋の造りが仕切りのない柱だけの開放的な空間でした。
そこに、屏風や御簾(みす)、几帳(きちょう)などのカーテンやパネル類、また押障子や鳥居障子などの取り外し可能な建具で仕切り、必要な場所に畳や二階棚などの家具や調度品を配置し日常生活や儀式の場を整えていました。
これらを設える(しつらえる)といい、室礼はこの言葉が語源になっています。

聖霊院の御簾(引用:Wikipedia)

几帳(引用:Wikipedia)
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床の間・畳の登場
やがて室町時代に入ると、書院造(しょいんづくり)が誕生します。
書院造は部屋全体に畳が敷きつめられ、床の間も登場します。
現在の和室の原型です。
床の間の起源には諸説あります。
- 座敷(敷畳)の中で、身分の高い人が座るため「上段の間」から発生したとする説
- 美術品や花などを鑑賞する場所として発生したとする説
- 仏壇などの形式が変化してできたものという説
いずれにしても、床の間は、和室の中で最も神聖で大切な場所とされてきました。
現在も、床の間には掛け軸や香炉など、その家で大切にされている調度品が置かれ、季節を感じる花を生けることでおもてなしの心を伝えます。
そして、客人を招くときは床の間を背にした席を上座としてお迎えするしきたりがあります。
これらは「床の間」が神聖で大切な場所であるという考え方が根付いているからですね。
昔は厳格な礼儀作法の1つだった
武家や公家の時代の室礼は、建具や調度の配置や手順が厳格に決められていたといいます。
生活の中で、「心得るべき礼儀作法のひとつ」とされていたんですね。
時代とともに生活スタイルが変わり、昔のような儀礼的な室礼は簡略化され、もっと自由に取り入れることのできる室礼に変化してきました。
茶道・華道・香道といった日本文化や、料理屋の和室などにも、室礼はなくてはならないものとして現在でも大切にされていますね。
和室の室礼
畳
日本の気候や風土に合わせ工夫された「畳」も室礼の一部といえます。
畳の原料となる「い草」は吸湿性、通気性に大変優れています。
高温多湿な夏はさらりと快適に、低温低湿な冬はほんのりと温かい・・・
畳は年間を通し快適に過ごすために伝えられてきた日本の伝統的な床材です。
また、シックハウスの原因となるホルムアルデヒドなどを吸着させ、空気を浄化させてる効果があります。
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床の間
床の間は和室の客間に設けられ、床より一段高く、部屋の中では最も大切な場所と考えられています。
床の間の横には、天袋、違い棚、地袋が設けられている床脇と呼ばれるスペースがあります。
また、付書院(つけしょいん)と呼ばれる明り取りの障子のついた棚がある場合もあります。
床の間の片方に立つ化粧柱を床柱、床の間に張る板や畳のことを床板や床畳と呼びます。
また、多くの床の間の上部には、小さな壁が設けられています。
この壁で作られた絶妙な影によって、床の間の空間に奥行きをもたせています。
- 壁にる影
- 書院からのほんのりとした光
- 掛け軸や花に陰影
これらによって床の間を、より奥深く鑑賞することができます。
まさしく繊細な美意識を持つ日本人の知恵の結集といえます。
昔は厳格な礼儀作法として室礼があったようですが、現在は床の間の室礼に特別な決まりはありません。
現在の床の間には、掛け軸、香炉などの置物、生け花などを飾ることが一般的です。
家庭や、客をもてなす主人の自由な発想で、室礼はさまざまな変化を楽しむことができます。
また、保管にも注意が必要。
掛け軸は和紙に表装裂地が糊付けされており、湿気にたいへん弱いという性質があります。
虫、カビ、シミなどの原因になりますので、桐箱に入れ専用の防虫剤を入れて保管しましょう。
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花
床の間に美しい花が生けられているのは気持ちのよいものですね。
季節やお迎えするお客様に合わせて、花を飾ります。
本格的な生け花でなくても大丈夫。
花瓶に生けた花や盆栽などもよいでしょう。
料理店や食事を出す場合は、香りの強い花は避けましょう。
また、掛け軸・香炉などと一緒に置く場合は、他とのバランスを考えることも大切。
高さのあるものを掛け軸の前に置くときは、掛け軸の正面をふさがないように置きましょう。
季節の移ろいを愛でる室礼
室礼によって、季節を感じられることは何よりも大切なポイントです。
特に季節の象徴である年中行事は、室礼に取り入れやすいものがたくさんあります。
そこから生まれる会話も膨らむことでしょう。
代表的なものがこちら。
鏡餅
お正月の鏡餅は、基本的に床の間に飾ります。
三方に紙掻敷(かみかいしき)を置き、裏白などの飾りの上に餅を2つ重ねるのが一般的です。
鏡餅の飾りはさまざま。
それぞれに意味があり1年の無病息災を願います。
雛飾り
3月3日の上巳の節句(桃の節句)、この時期に飾るのが雛飾りです。
雛人形はもともと、紙や藁(わら)でできたものでした。
次第に豪華になり、現代のような雛人形になったのは元禄時代。
雛段飾り、菱餅、白酒、桃の花を供えて、女の子が優しく美しく育つように願います。
近年は住宅事情などから雛飾りも簡素化されてきました。
床の間などに男雛・女雛だけ飾るという家庭も増えているようです。
ところで、男雛(お内裏様)と女雛、あれ?どっちに置くのが正解?
と毎回悩んでしまう方はいませんか?
それもそのはず、男雛(お内裏様)と女雛の位置は地域によって異なるのです。
古来の日本文化では「左上位」で、男性は向かって右、女性は向かって左が正しい位置とされてきました。
これにならって、公家が中心だった京都では、「男雛は向かって右側、女雛は向かって左側」。
現在も京都を中心とした関西ではこのスタイル。
これは「京雛」と呼ばれています。
一方、現在一般的に広く売られている雛人形は「関東雛」。
向かって左に男雛が座っているものです。
これは武家中心の関東では「右にならえ」といわれるように右上位の考え方から来たという説や、昭和天皇の即位礼に倣ったとされる説、文明開化以後の西洋文明が影響したのではという説など、諸説あります。
実際には震災や戦争などで資料が消失してしまったことで、はっきりとわかっていないのが実情のようです。
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五月人形
5月5日は端午の節句。
菖蒲(しょうぶ)の節句とも呼ばれています。
かつては端午の節句も女性のための節句だったといわれています。
その後の武家社会の発達によって、菖蒲が「尚武=武を尊ぶ」として、武家では、兜などの武具を飾り、のぼりを立てて子々孫々の武運を祈りました。
季節の花や植物
花や植物は、季節感を出すのにとても良い室礼です。
庭に咲いた花などでも花器にのせれば立派な室礼です。
特に厳格なルールがあるわけではありませんが、茶道などでは香りのきつい植物や毒のある植物は良くないとされています。
また、クチナシや彼岸花はあまり良い印象を与えないので注意。
それらに少しだけ注意して、庭先に咲いた花など、自由に飾ってみてはいかがでしょうか。
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床の間ではない場所に飾るときの注意
雛飾りや五月人形は、色褪せや変色を防ぎたいものです。
そのために、なるべく直射日光のあたらない場所や、エアコンの風が直接当たらない場所を選びましょう。
また、高い湿度にも注意!
台所や浴室など水回り近くは避けましょう。
直射日光の当たらない風通しのよい場所に飾るのがベストです。
まとめ
雛飾りや五月人形などは、家の中で一番格式の高い床の間に飾るのが一般的。
とはいえ、現代の住宅事情から床の間がないご家庭も多いですよね。
そんなときはもちろん、床の間でなくても大丈夫!
みんなに見守ってもらえるように、家族が集まるリビングなどがいいですね。
室礼は、ご家族との団らんや来客の際にも、その場を和やかな雰囲気にして会話も弾むことでしょう。
厳格な決まりはありませんので、ぜひ季節を自由にとりいれて室礼を楽しんでみてくださいね。